最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)1152号 判決 1949年1月20日
主文
原判決を破棄する。
本件を廣島高等裁判所に差戻す。
理由
辯護人中川兼雄上告趣意について。
犯行當時被告人が心神耗弱乃至心身喪失の状態にあったことは、法律上刑の減免の原由たる事実であるから、被告人又は辯護人からこの精神状態の存在を主張する限り原審は必ずこれに對する判斷を判決に示すの要あることはいうまでもない。一件記録によれば被告人及び辯護人が原審公廷において被告人の犯行當時の精神状態が果して正常であったかどうかについて精神鑑定を申請していることは所論のとおりであり、なほ、辯護人が辯論として「被告人は當時精神に正常を欠き居たものと認め得らるべく云々」と陳述していることも明白なところであるから、以上を総合して本件においては被告人及び辯護人は夫々被告人が犯行當時心神耗弱乃至心神喪失の状態にあったと主張したものと解するのが相當である。しかるに原判決にはこれに對する判斷が説示されているとは解し得られないから原判決には所論のように判決に示すべき判斷を遺脱した違法があると斷じなくてはならぬ。されば論旨は理由があって原判決は破棄を免れない。
よって被告人の上告趣意については説明を省略し舊刑訴第四四七條及び第四四八條の二第一項により主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)